【疾患と美容治療】
皮膚疾患がベースにある肌への美容治療は可能です。ただし、疾患のない肌に比べ、より注意深く行う必要があります。皮膚疾患がアクティブな状態では積極的な美容治療が困難な場合があり、通常の治療を優先すべきですが、病的症状が軽快した後、または、軽快しつつある皮膚に対して美容治療は相乗的な効果を発揮する場合が多いと考えています。
美容施術をおこなう際のファーストステップは、目の前の皮膚に何がおこっているかを分析することから始まります。残った色素沈着、血管拡張や皮膚のざらつきに対して、『何ができるか』『何をすべきか』を考え、戦略を立てる必要があります。皮膚の構造は?メラニンは?炎症は?毛細血管は?コラーゲン/エラスチンはどうなってる?など、皮膚を細かく分解していきます。
それらをチェックしながら、適した美容施術を選択し、状態に適切な出力や強度を考え、治療を施していきます。
【肌の状態の見極め】
・色素沈着:メラノサイトの活動性が高い状態なのか?メラニンがただ沈着してるのか?によって選択する治療戦略が異なります。
・赤み:炎症による反応性の血管拡張による赤みなのか、毛細血管が拡張・増殖しそのまま消退せずに存在していることによるのかを見極める必要があります。
・シワ・キメ:細かいシワやキメの乱れをみた場合、日光老化のみならず、肌への摩擦などの日常的な刺激がないか、アレルギー性皮膚炎、そのほか慢性的な皮膚炎のような持続する炎症によるものではないかを必ず確認します。最近、急に目の周りの小じわが増えた。という相談は、高頻度に眼周りを擦っていたり、皮膚炎が併発していることがあるので注意が必要です。
『皮膚に何が起こってるのか』を見極めるには、私たちの肉眼で見ただけでは気づかないことがたくさんあります。私は、画像診断機の使用を強く推奨します。これを使用すると、メラニンの状況、赤みの状況がより把握しやすくなります。画像診断によって得られた情報により、選択肢を変えることがあります。レーザー治療が適しているかしていないか、スキンケアや内服ケアのみにした方がいい状態か、などの治療選択に大きく役立ちます。例えば、肝斑や広範囲の炎症後色素沈着があり、そのメラニンの活動性が高い状態がある時に、内服や美白外用剤などを使用した治療前の準備ケアを行わず、レーザー治療をやみくもに行うと、逆に症状が悪化してしまう場合があります。メラノサイトが活性化している場合は、メラノサイトの活動性を抑えることを優先します。
【ニキビと美容施術】
ニキビの場合は、まず外用薬(過酸化ベンゾイル、アダパレンなど)の保険治療を開始し、長期継続を推奨します。抗菌薬内服は症状が強い場合のみ投与します。抗菌薬を気軽にニキビの救世主のように使用しないことが重要です。私はその代わりに、腸を整えることに注力することをお勧めしています。お腹の調子を整えるような食生活を勧め、プロバイオティスク(乳酸菌など)の摂取も推奨します。これはニキビのみではなく、その人の体自体を整えることが目的です。ニキビの悪化は腸の状態にかなり左右され、抗菌剤の長期投与は耐性菌問題もさることながら、腸内細菌のバランスを大きく壊すため、注意が必要です。抗菌薬を内服している時は良いですが、やめた途端ニキビが出てくるようになった。いう方も多くいます。
ニキビに対する美容治療は、ニキビが治った後の赤みがなかなか消えない場合や、自然軽快を待てない場合、Vビーム(ダイレーザー)や、YAGレーザー、IPLなどによる赤み治療を推奨します。
画像 IPL:光治療またはフォトフェイシャルと呼ばれる。
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ニキビ後の黒ずみは、炎症後の色素沈着であり、シミではありません。待てば皮膚の代謝で自然に消えることが多いです。しかし、改善するまで長期間待てない、改善を早めたい場合は、ピーリングやターンオーバーを促す治療を行います。
保険治療薬の過酸化ベンゾイル(BPO)やアダパレンを使っている場合は、継続により、色素沈着の改善も期待できます。しかしBPOやアダパレンが使えない方の場合、グリコール酸、乳酸などによるケミカルピーリングや、レチノールやトレチノインなどのターンオーバーを促す外用剤の使用を推奨しています。また、ビタミンC、ビタミンE、ハイチオール、グルタチオン、トラネキサム酸などの内服を行う場合もあります。
機器での治療は、赤色や青色のLEDによる治療、IPL、レーザー、ニードルRF 、イオン導入、超音波導入、エレクトロポレーションなども併用する場合があります。
【アトピー性皮膚炎と美容施術】
長期にアトピー性皮膚炎を患っている肌はくすみ、赤みが強く残る場合があります。それらに対して、可能な美容治療があります。基本的に皮膚炎の症状が落ち着いている方に行いますが、皮膚炎が季節的に少し出てくる程度の軽症の方には、皮膚炎がある状態でIPLやレーザー脱毛を行う場合があります。
また、副腎皮質ステロイド軟膏等を長年使用してきたアトピー性皮膚炎の方は、皮膚が薄くなり、内出血が出やすく、見た目にも透けたような皮膚になることがあります。そのような状態にレチノールを用いた外用ケア※を行うと、皮膚の質感が改善し、皮膚の菲薄化※の改善が期待できます。顔の場合は皮膚が薄いことにより、額、眼周りや口周りにちりめんジワが目立つことがあります。
皺だからボツリヌストキシン注射で治療しよう。という安易な考えではなく、まず皮膚の菲薄化を改善させることが重要です。
アトピー性皮膚炎への美容治療は、まず皮膚を健康的な状態にリセットすることから始まります。ベースの皮膚が病的な状態であるにもかかわらず、無理な美容治療を行なっても、うまく改善しません。
※レチノールのケア:ビタミンAの1種で、肌のターンオーバーを促進し、皮膚の再生を促す効果があるレチノールを配合した製品を使用すること
※皮膚の菲薄化:皮膚が薄くなること
【エイジングケアと美容施術】
エイジングスキンは非常に多彩な症状を来します。特徴的なのは皮膚の質感の低下です。皮膚が菲薄化し、弾力を失い、キメがあれ、毛穴が広がり、くすんできます。
最初に必要なことは、皮膚の質を改善するケアをすることです。美容治療は、スポーツのトレーニングのようなものです。最初から準備運動もせず急に走り出したら怪我をするのと同じで、皮膚にも準備運動が必要です。まず、皮膚を健康的にするために、代謝を上げ、低下した肌力を戻すことが重要です。それには、食生活の見直し、腸のケア、皮膚の代謝を上げるレチノールのケアやビタミンCなどの塗布、その他、皮膚の機能を上げる成分をうまく使い、しっかりと紫外線対策を行うことが第一歩です。エイジングスキンが気になるお年頃の方は、顔だけではなく、体の健康も非常に大切です。
【それぞれにあった美容治療を】
茶色いからシミ取りレーザー、お友達がうまくいったから私も同じもの。このような考えは適切ではありません。一人一人体質・肌質は異なります。
食生活も生活環境も異なる、年齢も性別も異なる、人種も異なることもあります。このような方に一つの治療でうまくいくことはありません。
世の中に多々ある美容治療は、それぞれを必要に応じて適切に組み合わせて、その方のその時の状態に合わせてメンテナンスしていくべきです。
時代とともに美しさの定義は変わります。流行りもあります。しかし、唯一変わらないこと、それは、健康が第一ということです。
いかに流行りがあったとしても、不健康になるような流行りには乗ってはいけません。皮膚がツルツル・ピカピカ・ビニールみたいな状態は不健康だと私は思っています。
【美容施術は本当に必要?】
美容治療が人生にとって必要がどうかは、ケースバイケースだと思います。ただ、悩んでいる時間があるのであれば、ぜひ一度相談をしてみてください。老化によりできたシミにより、見た目の印象がネガティブに見える場合、私は治療をすべきと考えます。本人が全く気にしていないなら話は別ですが、もし気にされているのであれば治療を強く推奨します。毎日10分自分のシミについて考える時間があった場合、40歳から80歳までの40年間で丸100日以上悩んでいることになるわけです。無駄な時間がこんなにあるのって悲しくないですか?
目尻のシワなども、ご本人が気にしてないなら、まったく治す必要がないのですが、ただ目が開きにくい、目が疲れるという症状があれば、「ボツリヌストキシン注射」により機能的に補助することができます。このように、美容治療の中には、生理機能を補助するようなものもあり、顔を変えるために行うのではなく、楽に生活できるために選択することができます。
私の目指す美容治療は、『楽になれること』です。コンプレックスを減らす、悩みから解放されて時間を大切にする。これはとても意義のあることです。
昨今の美容の治療は、これがいい!これをやるべき!強い方がいい!という傾向があり、その結果、効きすぎた!ダメだった!失敗した!という極端な内容にフォーカスされがちです。
全てのことには『良い塩梅』があることを忘れてはいけません。コストパフォーマンス重視で、一回の治療をMaxパワーでやってほしい!などという要望を聞くこともありますが、その考え方は非常に危険です。適切な治療強度を皮膚の専門家である我々に任せてほしいと思っています。
また、過去に体験した治療がとても良かった。という記憶に囚われすぎる場合もあります。数年ぶりにIPLをしたのに前ほど良くならなかった。などということもありませんか? それは、私たちの肌は日々変化し、昨日の肌とは違った状態になっていくからなのです。過去の成功体験は残念ながら過去のものです。友達の成功体験を自分にあてはめたりすることも間違いです。
『今のあなたの』『今の肌に』『今、何をすべきか』これが美容治療の大切な考え方です。
秋葉原スキンクリニック 院長 堀内祐紀 先生
また、セルフ美容ケアは、良い場合も悪い場合もあります。成功した人にとっては良いものであり、成功しなかった人にとっては悪いものであり、表裏一体です。
食べてみておなかを壊したら次は食べないようにする。肌が荒れたら使わないようにする。当たり前のことなのですが、現代は、情報の方を優先しがちなので、自分の体がSOSを出しても無視をして中止しないのです。それにより皮膚のトラブルが悪化してしまうことが多くあります。不健康な状態は、絶対何か原因があります。原因がないわけではなく、見つけていないだけなのです。ぜひ、ご自身の行動パターン、使用しているもの、食事の内容などを見直し、体のSOSをしっかりキャッチするように自分を慈しんでください。
もう一つ、よく聞かれるのが日焼け止めのこと。強い方が良いんですか?という質問です。正直、何も塗らなくて済むなら塗らない。というのが極論ですが、そうは言っていられませんよね。SPF(Sun Protection Factor)は、日焼け止めが紫外線B波(UVB)を防ぐ力を示す指標です。UVBは肌を赤くし、日焼けを引き起こす主な原因となる紫外線です。
例えば、「SPF30」の日焼け止めを使用すると、何も塗らない状態で10分で肌が赤くなる人は、30倍の300分(5時間)日焼けを防げるとされています。ただし、これは理想的な条件での目安ですから、汗や水、タオルでの拭き取りなどによって効果が弱まってしまうので、実際は2〜3時間ごとに塗り直しをすることが推奨されています。もし2時間おきに塗り直せるのであれば、SPFはそんなに高くなくてもいいけれど、塗り直せない場合は、「SPF50」の方がいい。というように、ケースバイケースなので、答えは一つでは無いのです。
今日の私はこれがいいかも。明日の私はこれがいいかも。先月これでよかったけど、今月ちょっといつもと違って肌の調子がおかしいなあ。というように、変化に敏感に対応する能力が必要です。日本は四季があり、気象環境がすごく変わりますよね。低気圧も来るし、暑い時もあれば、寒さ、乾燥、花粉など過酷な環境が目まぐるしくやってきます。ぜひご自分の肌を気にかけてあげて、肌のSOSを敏感にキャッチしてください。
美容施術を受けるにはどこに行けばよいですか?ということに関しては、美容クリニックであっても、皮膚科であっても先生とスタッフの知識とスキルがあるところがいいと思います。その中でも、皮膚専門医のいるクリニックは皮膚への知識が非常に深く、皮膚の病気もケアできるため、安心して治療を受けられると思います。
【健康的な綺麗な肌をもとめて】
私が考える本当の意味の健康肌というのは、二次性徴前の子供の肌※と考えています。皮脂腺の活動がホルモンにより活発化すると炎症肌に傾き始めます。そうなると、ニキビができたり、酸化した皮脂による炎症を起こしたりします。患者さんの肌を間近で見ていると、あれ?肌が前回と変化しているな。と感じることがあります。多くは、毛穴が開き、皮膚がむくみ、赤みが増すような症状です。どうして急にこのような変化をしたのだろう。仕事や学校の環境が変わった?食生活は?引っ越しをした?結婚などのライフイベントがあった?など、その人の生活にダイブして考えます。
皮膚の変化には必ず原因があります。検査では突き止められないこともたくさんあります。原因が突き止められないから無視をするのではなく、様々な方向から原因を考え、皮膚を健やかにしていく根気が必要です。
※二次性徴前の子供の肌:いわゆる思春期前の肌で、男子12~14歳前、女子10~14歳前の肌。
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