SPECIALIST COLUMN 医師ら専門家のスキンケア指導方法

アトピー性皮膚炎との付き合い方 -私自身のアトピーを通して- 

今回は、ご自身のアトピー性皮膚炎と付き合いながら、診療にあたっている医師のインタビュー記事です。

・先生のご紹介をお願いします。
大阪府門真市で診療しております冨樫クリニックの奥川祥代です。

・先生ご自身のアトピー性皮膚炎について、発症から現在に至るまで、お聞かせください。
乳児期から症状は出ていた、予防接種もなかなかできなかった、と母から聞いていますが、自分がアトピーだと自覚したのは小学校に入ってからです。朝礼の『前にならえ』の時に肘窩(ひじの内側)に湿疹があることを自覚しました。その頃は四肢に出ている程度でした。しかし、いつもと違う環境になると、しばらく悪化する時もありました。そのような時は局所にリンデロン軟膏を使い、また、強酸性水を使用したり、クロレラの液体を飲んだり、親が良いと思うものを試してくれていました。病院には通院していませんでした。小学校高学年から中学に入る頃には肌の状態は落ち着き、高校時代までいい肌の状態でした。時々、皮疹は出ましたが、清潔と保湿だけですぐに落ち着きました。
大学に入って部活動でテニスをするようになると、汗や砂ぼこり、紫外線など、肌に良くない環境もあり、肌の状態は良い状態と悪い状態を繰り返しました。症状がひどい時には、母校である関西医大の皮膚科を受診し、塗布薬を処方してもらっていました。
研修医時代になると、ストレスもあったのか、人生最大にひどい症状となってしまい、ステロイド外用(マイザー軟膏やネリゾナクリーム)にワセリンに加え塗布し、初めてステロイドの内服もしました。
それからは、落ち着いたり出たり、の繰り返しでしたが、出向先での勤務と結婚が重なった時期には少しひどくなりました。これもストレスでしょうか(笑)。結婚し出産して、子供達が幼稚園くらいまでは症状が出ていました。子供達が小学生になると、肉体的にはまだしんどいこともありましたが、精神的にちょっと落ち着き、症状も落ち着いてきました。その後、子供の反抗期や受験などがありましたが、昨年の夏くらいまで、ずっと、いい肌の状態が続いていました。

昨年の夏頃、通常診療と並行して、新型コロナウイルスの感染対策をして発熱者患者の診察というストレスと忙しさからか、皮疹が出始め、追って痒みがひどくなり、あっという間に爆発状態、全身に広がってしまいました。研修医時代の症状に匹敵するほどのひどい症状になりました。子供の時のアトピーは屈曲部など関節部分に皮疹が出ますが、大人のなってからのアトピーは屈曲部よりはデコルテやお腹、腋窩から背中にかけて、大腿部など広い部分に皮疹が出ていました。
今はピークを越えた感じですが、ピーク時は痒さに加えて全身がチクチクし、乾燥した硬い肌になっていました。治療のためステロイド注射もしました。注射や内服のステロイド薬に抵抗はありましたが、上手く使用すれば怖くない、むしろひどい状態で長引くと肌も硬くなるし、色素沈着も進んでしまう、気持ち的にも毎日が大変なので、使用を決めました。今では、早くに落ち着かせてよかったと思います。

皮膚が硬いときは、外用薬を塗ってもしみ込んでいく感じがなく、ただ単に油を皮膚表面に置いているだけの感覚でした。その時、薬を浸透させるには、まず水(モイスチャー、保湿)が必要だと考え、『もったいないかな』と思いながらも、顔に使用していた化粧水を身体にも使用しました。医療用医薬品のヒルドイドローションも使用しましたが、ヘパリン類似物質という成分に反応したのか、細かく多数の引っ搔き傷のある皮膚にはチクチクしたので、自分に合う化粧水を身体にも使用し、その上から外用薬を塗っていました。今、やっと、皮膚症状は落ち着きつつあります。もちろん、まだまだ薬も日々のケアも継続中です。

・肌の状態
 
悪化時(R5.1月)
 
現在(R5.3月)

・日常のケアについて教えてください。
私は、皮膚に一日のっていた塗り薬、目には見えない不感蒸泄、は一度オフし、きれいな状態にして保湿、塗布をすることが大切だと思っています。そして、きれいな寝具で休むことが本当に大切だと思っています。毎日毎日の積み重ねですよね。また、難しいことかもしれませんが、ストレスを溜めないよう、自分なりの発散方法も持っていたいと思います。

入浴時は、肌を温め柔らかくしてから、肌についた古い薬、汗やよごれを取るために、せっけんを泡立てネットで泡立てて手で洗っています。そうすることで、どこがざらざらなのかが確認でき、塗布をしっかりする部位がわかります。洗っていると、痒さが強くなる時もあり、ついつい掻いてしまいそうになりますがますが、そこは、うーーん、、、と我慢です。

顔へのスキンケアは、出産後よりずっと同じメーカーのものを使用しています。母に、日本の商品が日本人にはあっていると思うよ、と言われて使い始めました。でも、日焼け止めは、怖くて使ったことがありませんでした。帽子やタオルなどで物理的に防ぐようにしていました。紫外線吸収剤がかゆみの原因になるかもという気持ちと、普段使用していない製品に手を出すのが怖かったからです。最近やっと、サンプルで必ず試してから使うようになりました。
塗布薬も化粧品も、私にはこれが合っているけれど、あなたにこれが合うかどうかわからない、時として自分に合うスキンケアを見つけるために、試す事が必要と思います。しかし、塗布薬の何をどうやって試していくか処方してもらうためには、受診をする時間を作らないといけないし、先生とのコミュニケーションも重要になります。化粧水などいくつか購入するのはお金もかかる。自分に合うスキンケアにたどり着けないでいる人も多くいるのではないでしょうか?長く信頼できる先生、スキンケア用品、に巡り合うことは、これから先の自分とアトピーの付き合いに、とても大きな一歩だと思います。

ずっと私は、肌は応えてくれる。毎日少しずつ生まれ変わる、絶対あきらめないで継続すれば良くなるという気持ちを持っています。心折れそうな時も、『肌は生まれ変わる、肌は応えてくれる』と自分に言い聞かせていました。肌に悪そうな、喫煙、お菓子、刺激物などを控えて、掃除もしっかり、衣類はチクチクするようなものは避けています。そんなことくらいでは大きく変わらないだろう、と思われることも、毎日の積み重ねだと信じています。症状が強いときには、綿100%の長袖とスパッツの肌着をつけ、ブラジャーは蒸れたり締め付ける部分は摩擦で痒くなりやすいので、締め付けないフワッとしたものにしています。

・アトピー性皮膚炎だから、の思いをお話してもらえますか?
すごく悩みましたよ。本当に、毎日、鏡を見るたびに落ち込み、嫌で、皮膚を全部、それこそ肌を1枚はがして取り替えたいとか、お年頃の時は、この肌が原因で嫌われたりしないかと悩んだり、写真撮影のときに綺麗な肌で写りたい、どうしたらいいのか?とか、皆さんも一緒ではないでしょうか。毎日ケアをしても、それでもやっぱり叫びたくなるぐらい痒くなったり、我慢しきれず堰を切ったように掻いてしまって後で後悔したり、何で治らないのだろう?ここまでしているのになんで?という気持ちになったりもしました。皮疹を見られたくないと、夏でも長袖を着て過ごしていました。

ちょうど結婚する頃に、「みんながツルツルの肌なのに、私の肌はこんなガサガサで、相手に嫌な思いをさせたり、嫌われたりしないか」と先輩に愚痴ったこともあります。その夜、先輩の奥様から「私もアトピーなのよ。結婚する相手の方はそんなことは気にしないわよ。ただ、お遊びでお付き合いするような人ならきれいな肌の人がいいのかもしれないけど。気にしなくていいからね!」「私は何かイベントがあるときには、少し前から計画を立てて、薬も使って皮膚を無理やりきれいに持っていき、その時を乗り切るんですよ。でも、ひどいときは、これもダメ、あれもダメって、家中のカーテンを一気に洗ったり、カーペットを全部取り替えたり、見るものがすべて悪に見えるものよ。アトピーで悩んでいる人はみんな同じ気持ちよ。大丈夫なのよ。」と、お電話をいただきました。すっと、気持ちが軽くなったのを鮮明に覚えています。
今でも私は、症状が強い時には、洗剤が悪い、布団が悪い、カーテンが悪いとか、全部が悪に見えてきます。(笑)家族が帰宅して近くでバッと服を脱いだら、「そんなところで服を脱がないで、ほこりが飛ぶ、花粉が飛ぶ」と怒っています。すごく敏感になります。

・医師として、患者さんにお伝えしたいこと
診察の時には、いつ頃から皮膚症状が出ていたのか、今までどんな薬を使ってきたのか、今の症状は最近出たのか、ずっと出ていたのか、を聞きます。そして「今一番悪いところを見せて、最初が肝心やからね。」と、女の子でも脱いでもらって一番悪いところを見せてもらいます。そして「この状態はあなたの中で、一番悪い状態?それともちょっとましになってこの状態なの?」と聞きます。

すぐに治したい、ツルツルのお肌にしたい、と言われることがあります。『すぐに治して、ツルツルの肌にするような薬はない。早く治そうとして、それこそ病状に適さないような強いステロイドを使うと一時は良くはなるかもしれないけれど、いろんなところで副作用が出る心配がある。皮膚は急に良くなるものじゃないから、この薬をとりあえず1ヶ月続けてみてください。』言葉の表現や、言い方、ニュアンスを選びながら説明し、わかってもらいます。
お母さんには、今のお子さんの肌は所々皮疹が出ているけども、将来、痕にならないくらいの皮疹であればゼロにする必要はなく、お年頃になったときに傷とか色素沈着がない状態に持っていくためには、どれぐらいの治療やケアをすれば良いかをお伝えしています。

上手にスキンケアをする、上手にアトピーとお付き合いする方法を見つけることが大切だと思っています。成長し、生活していく中で、スポーツもしたいし汗もかきたい、どんなに避けたくてもほこりや花粉の中で過ごす時があるかもしれない、アトピーの悪化の原因と考えるものを全て防いでずっと生活していくことは無理。でも、そういうリスクがあると前もってわかっているときには、先に対処の方法を考え、どのようにすれば悪化のリスクが減るか、アトピーとのお付き合いの仕方を自分でわかるようになってほしく、診察の中でお話をしていきます。

・アトピー性皮膚炎の女医が思う美肌とは?
触ったときに固くない、もちもちした肌。
水分たっぷりの柔らかい皮膚は、傷が出来ても炎症後のシミになりにくくきれいに治りやすい。硬い皮膚だったら、傷はなかなか治らない。
毎日皮膚の状態に関心を持ちもっと上を目指していく気持ちに応えてくれる肌。

・診察室、外観
  

 

奥川 祥代 先生この記事を書いた人

関西医科大学卒業
関西医科大学
北野病院
冨樫クリニック

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